新規事業を立ち上げてから軌道に乗るまでの道のり、つまり0から1までの道のりは、通常は想定外の事象が多発、更にひどく遠回りするなど、事業が失敗する確率が最も高いステージです。

 本テーマは、0から1までのリスク(不確実性)が非常に高い道のりを、どのようにすれば乗り越えられるか、検討・考察しています。なお、本テーマにおける「事業が軌道に乗る」とは、継続的に新規顧客を獲得でき、その新規顧客がリピーターとして再度利用する仕組みを確立できた状態のことを指します。

新規事業が失敗する理由

 新規事業の開始後は、調達、生産、販売等の事業運営におけるノウハウが不完全な状態です。事業運営をしながら成功させるためのノウハウを構築しなければなりませんが、多くの事業者が成功ノウハウを構築する前に資金が底をつき撤退を余儀なくしています。

 特に売上を上げるための販路や顧客獲得といったノウハウは、新規事業の成否を分ける非常に大きなポイントです。事業を成功させる上で必要となる数多くのノウハウを構築する難しさこそが新規事業が失敗してしまう大きな要因です。

敗者復活戦ができるように失敗コストを下げること

 成功ノウハウを構築したとしても一時的な外部環境の変化で事業が頓挫してしまうこともあります。敗者復活戦に臨める失敗であれば、構築したノウハウを次に活かすことができます。

 例えば、工場を建設して製造から新規事業をスタートするケースがあります。その場合、相当な資金を借入することがあり、失敗してしまえば多額の借入が残り敗者復活戦ができないことがあります。上述のとおり、成功ノウハウが不完全な状態でかつ資金に余裕がなければ、ノウハウを構築する前に撤退する可能性はかなり高くなります。

 敗者復活戦をできるようにするには、小さな事業規模から始めて失敗コストを下げることです。小さな事業規模から始めるとは、上記工場の例では、どこかの工場の一部を間借りしたり、機械はリースや中古品で調達したり、とにかく初期投資費用を抑えること、または製造する製品を購入して販売業として事業を始め、販路を確保しておくこと、などがあります。

 次に、新規事業における0から1までは不確定事象が多く、やってみないことには分からないことが多々あります。不確定事象を明確にするには失敗コストが小さな試行錯誤から手探りで答えを探していかなければなりません。失敗コストが大きいと、資金をどんどん食い潰し、また、答えが出るまでには時間が掛かるので資金面における時間との戦いになってしまいます。

 新規事業の成功確率を上げるには、規模を小さくすることで掛かる運転資金を小さくし、加えて試行錯誤の失敗コストを下げて早く安く失敗して経験値を積み、成功ノウハウを構築していくことです。

事業が軌道に乗る0(ゼロ)から1までは「小さな池の大きな魚」を目指すこと

 新規事業の開始直後は、様々なお客様にサービスを提供し、価値を感じて頂こうとサービス精神旺盛になりがちです。チャンス(機会)を多くするためにターゲット市場を広げ、どこの市場を主戦場とするか特定しないことがあります。しかし、ターゲット市場が広いと、会社や商品・サービスが認知されるまでに時間が掛かり、また口コミ等も広がりにくく非効率な部分が生じてきます。

 限りある経営資源を有効に活用するためには、ターゲット市場を絞って「小さな池」で戦う事が有効です。小さな池におけるメリットは、競合が少ないこと、販売先や消費者、顧客へのコンタクトポイント(※1)を増やすことが容易になり、会社や商品・サービスの周知・認知活動が効率的に行えることです。つまり、経営資源の少ない新規事業者は、ターゲット市場を絞り、極力少ない経営資源でマーケティングなどを行わなければなりません。

 次に、「大きな魚」とは、事業が軌道に乗り事業規模を拡大していくにあたって、競合他社が参入して競争とならないようにするための対策や競合他社に打ち勝つための対策を意味します。現在、あまり競合がいなくてもターゲット市場の成長率が高ければその市場に多くの企業が参入してきます。特に大企業の参入に対抗するのは至難の業で競争すれば一瞬で踏み潰されてしまいます。そのような強者や競合他社との競争を避けるには参入障壁を高くすることが有効です。

 参入障壁を高くするには、①ターゲット市場を限りなく小さくして、②その市場においてシェア・ブランドを十分に高くすることです。まず①の市場が小さいことは、大企業にとっては魅力が小さくなります。大企業の収益計画は、前年比売上5%アップのように数十億~数百億の売上アップが課せられています。よって、小さな市場では計画を達成できないため、そもそもその市場は土俵に上がらないことがあります。

 一方で、中小企業や同規模の事業者とは同じ土俵で戦わなければなりませんから、②のシェア・ブランドを高くしていかなければなりません。この段階においては、自社の特徴や強みを作ることで差別化を図り、シェア・ブランドを高めていくことに尽きます。

 最後に、事業の運営資金は、事業から生み出さなければなりません。経営資源を獲得して取れるリスクを大きくし、徐々に事業を拡大していく、小さく産んで大きく育てていくことが新規事業における理想経営になります。

※1 コンタクトポイントとは、顧客が会社やブランドと接する接点を意味し、会社やブランドについて顧客に何らかの印象が残るあらゆる接点が当てはまります。広告のように会社側から意図して発信される接点もあれば、口コミのように顧客から発信される接点も含まれます。

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